『夜が明けるよ』特別ライナーノーツ 文・印南敦史
オリジナル・アルバムとしては、2009年の『願い』以来7年ぶり。その間にも東日本大震災支援歌『まけないタオル』などいくつかの作品を出しているとはいえ、さまざまな障壁を乗り越えてきた末にできた作品でもある。だからこそ本人にとっても、このアルバムには大きな意味があるはずだ。
そして実際のところ、本作は現時点でのやなせなな像が理想的なかたちで反映された作品だといえる。シングル『帰ろう。』でのデビューから12年の歳月を経て、いまの彼女がとてもよい状態にあることが、音の端々からはっきりと伝わってくるのだ。
バック・バンドとの相性のよさがはっきり音に表れており、メンバー全員がこのセッションを純粋に楽しんでいることがわかる。だから、音楽の知識があろうがなかろうが、どんな人でもリラックスして聴けるはずだ。
人の“1日”と“一生”を、縦糸と横糸のように表現した作品。そこには、2つの思いが込められているという。ひとりの人間が子どもから大人になっていき、いろいろな経験をした末に年を重ねて人生を終えるというストーリーがひとつ。
そして、いろいろな人たちの気持ちや人生を静かに見つめていた神様が降りてきて、そこに見えるひとつひとつの世界を歌にしているというようなイメージ。尼さんとしての側面も持つ彼女ならではの、誰にも真似のできない世界観だといえる。
と書くと理屈っぽく聞こえてしまうかもしれないが、決して難解ではない。それどころか、とても落ち着ける作風だ。オープニングのタイトル曲がはじまった時点で、不思議な安堵感に包まれるだろう。
それは以後の楽曲もいえて、「なないろの朝に」「F村の猫」「お正月」「ひよこのコーヒー」などなど、各楽曲にほっとできるような安堵感、そして言葉にしづらい懐かしさがある。そしてそうしたニュアンスが、目先の流行に左右されることのない“やなせなな流の普遍性”として昇華されている。
いま思えば前作『願い』には、内面へ内面へと進んでいくような質感があった。だから、決して明るい作品ではなかったかもしれない(それはそれで、とてもよかったのだけれど)。しかし、本作はむしろ対照的だ。肩の力がいい具合に抜けている。ゆったりしている。だから先に触れたように、聴き手も“ほっとできる”のである。
印南敦史
作家、ライター、編集者。最新刊「遅読家のための読書術」(ダイヤモンド社)が発売1ヶ月で4刷3万部超。書評家として「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「Suzie」などに寄稿。